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盛岡家庭裁判所 平成8年(少)378号 決定

少年 U・H(昭和54.10.11生)

主文

少年を中等少年院(長期処遇)に送致する。

理由

(ぐ犯事由及びぐ犯性)

少年は、平成7年5月12日、保護観察に付されたが、その期間中も、夜遊び・無断外泊を続け、同8年3月ころから、再三にわたり素行不良少年を自宅に引き入れてはシンナーを吸引し、また、同年6月ころには、無車検の自動二輪車の無免許運転を累行し、さらに、同2月及び5月ころには暴行、傷害事件を敢行し、同3月ないし4月ころには、単身でアパートに生活する資金を両親に強要するなどしていたものであって、このまま放置するならば、その性格及び環境に照らして、将来、毒物及び劇物取締法、道路交通法違反及び暴行・傷害等の罪を犯すおそれがあるものである。

(法令の適用)

少年法3条1項3号本文、同号イ、ロ、ハ及びニ

(処遇の理由)

1  少年は、平成7年4月4日及び同月8日、共犯少年らとともに恐喝及び恐喝未遂事件を起こし、その性格及び環境などを鑑みて、当裁判所により、同年5月12日、保護観察処分に付された。

2  しかし、少年は、保護観察決定直後から夜遊び、無断外泊など徒遊生活を始め、平成7年6月17日喫煙、平成8年1月6日喫煙、同年3月3日シンナー吸引、同月30日喫煙及び家庭内暴力、同年4月6日不良交友、同月7日喫煙、同月8日深夜徘徊、同月23日深夜徘徊、同年5月11日深夜徘徊、同月26日喫煙で補導されている。

また、少年は、平成8年3月ころから、自宅に友人らを引き入れて自室でシンナーの吸引を始め、さらに、平成7年10月ころ、暴走族に加入した上、平成8年2月ころ、友人から自動二輪車を購入し、そのころから無免許運転を繰り返し、6月20日に右バイクが領置されるまでこれを続けた。なお、右暴走族は同年5月に離脱している。

そして、平成8年2月18日には、パチンコ店前で友人を殴って怪我をさせ、同年5月21日には職場の同僚を殴るなどの暴行・傷害事件を引き起こした。

上記のような少年の生活態度に対して、観察官及び保護司から注意・指導が加えられたものの、少年はその生活態度を改めようとはせず、それどころか、出頭要請についても日時を忘却したり、面倒だとの理由で不出頭することが多かった。また、保護者の注意も聞き入れず、かえってこれに反発して暴行すら加える状態であり、平成8年3月ころには、単身でアパートに暮らすための資金として30万円を保護者に要求し、保護者がこれに応じないや脅迫文言を加えるとともに、家庭内で暴れるような状態であった。

少年の交友関係は、非行歴のある少年が多く、それら友人を自室に引き入れシンナー吸引などをしていた上、暴力団関係者との交流も若干見られる。

また、少年の職歴を見るに、保護観察決定後、アルバイト、露天商手伝いを短期間した後、平成7年11月ころから土木業者にアルバイト就職したが、会社の方の都合で連日稼働できなかったため辞職し、平成8年4月より、○○工業でとび職見習いを始めたが、数日出勤して休むという繰り返しで、しかも、前記のとおり、同年5月21日に同僚を殴ったため失職している。

3  鑑別結果等を総合すると、少年の性格面等においては、気分に左右され、場当たり的な行動をとりやすく、自由きままに一時的な快楽を追求しようとする傾向が見られ、自分の生活を改善しようとする意識が希薄である。

4  家庭の監護状況の方は、父親が少年の監護に消極的であり、むしろ少年の更生についてその責任を他に転嫁するような姿勢がみられ、母親は、少年の暴力に脅え少年に気兼ねして、少年のわがまま放題を許さざるを得ない状態である。結局、少年と家族の関係は、少年の反発をおそれて毅然とした態度を誰もとれず、かえって、少年の方が開き直って家族を脅してまで自己の要求を受入れさせようとするなどしており、その関係は悪化していると言わざるを得ない。

5  なお、観護措置をとる直前の平成8年7月2日になって、少年は新たな就職先を探し出し、自主的に生活改善の意欲は見せたものの、その後同月18日に観護措置をとられるまでの間、夜遊びで帰宅が遅れるなどの理由で、2週目から2日間ほど欠勤するなど、その姿勢も早くも崩れ始めてきている。

6  以上をみると、少年は保護観察期間中の身でありながら、前記ぐ犯行為を間断なく敢行しているものであり、その非行性は進展している一方で、保護者のみならず観察官や保護司の指導にも従わない状態が続いているものであり、少年の資質、これまでの生活状況、就労経験などを考慮すると、もはや少年に対して在宅による処遇をすることは極めて困難であり、この際、少年を矯正施設に収容し、統制された場所で、少年の問題意識の向上、健全な生活習慣や社会常識並に就労意欲の獲得、保護者に対する態度の涵養を図る必要があると認められる。

7  よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条3項により少年を中等少年院(長期処遇)に送致することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 中村恭)

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